人気高級旅館をさらに改善するには 従業員の意識を変えたチームビルディング(前編)
こんにちは、NBSホテルマネジメントです。私たちの仕事をわかりやすくご紹介する新企画「宿泊業界ノウハウの教科書」、4回目は人気高級旅館の経営改善にフォー...続きを見る
TOPICS
こんにちは、NBSホテルマネジメントです。
「宿泊業界ノウハウの教科書」、4回目は人気高級旅館の経営改善の事例を紹介しています。前編 ではチームビルディングによるスタッフの変化を紹介しましたが、後半はサービスや施設の改善を中心に取り上げます。
-サービスの改善についてどう取り組まれたのでしょうか
中尾 施設様は高級旅館らしく、誕生日などのお客様の情報の管理はできていました。ただ、誕生日や記念日には何もしていませんでした。
そこで、夕食時に「今日誕生日なんだ」という会話が聞こえてきたら、すぐにフロントに連絡が行き、夕食が終わって部屋に戻ると小さなスパークリングワインが置いてある、そんなサプライズサービスを提供するようにしました。このサービスはお客様にはとても好評で、口コミでも高い評価をいただきました。
サプライズサービスを成功させるには、従業員の「思い」が重要になります。「業務の一環でやる」という感覚ではなく、「お客様に喜んでもらえるからこうする」と考えるほうが、良いサービスができるんです。
これは、チームビルディングのミーティングの際に出てきた「お客様を感動させる『魅せ方』ができている」「お客様が欲しいものが当たり前にある」につながります。発言やサービスに自然と感動してもらうような瞬間をどう作るかがカギですね。
このほか、各部屋に提供していた新聞を需要を考慮してロビーのみでの提供にしたり、夕食後の夜食を9割以上の人が残しているため廃止したりと、サービスの取捨選択をおこないながら無駄を省き、必要なサービスに注力できるようにしました。
-続いてハード面についてお伺いします。施設の改善はどのようにされたのでしょうか
中尾 施設は観光庁の補助金などを活用して改修しました。間接照明を電気代のかかる蛍光灯からLEDに入れ替えたり、全館空調を個別空調に変えたり、客室を露天風呂付へ改修しています。
昨年秋にはオールインクルーシブのラウンジを設けた貸切露天風呂コーナーをオープンしました。実はチームビルディングのミーティングの際に、貸切露天風呂のある庭園が暗い感じがするため利用率が低いという課題があがっていたんです。
このため、貸切露天風呂の一帯を改装し、モダンな雰囲気のラウンジを設けました。客室以外にお客様が滞留できるスペースが欲しい、という考えもあってのことです。ラウンジは無料で利用でき、コーヒーや紅茶、ジュースに地元産のアルコール類などのドリンクや薬草茶も無料で提供しています。
改装した結果、お客様の満足度と顧客単価があがったので大成功でした。ちなみに、レストランでは提供するドリンク類をよりクオリティの高いものに変え、ラウンジと差別化しています。
-販売方法を工夫されたということですが、どう変えられたのでしょうか
中尾 OTAはそれぞれご覧になっている客層が異なります。このためターゲットに合わせてページの構成や写真の選び方を変えました。
たとえば一休の場合、ユーザーは「高級感」を求めているため、印象的におしゃれだと感じるイメージ写真を増やしています。一方、じゃらんはさまざまなユーザーがいるので、部屋や料理などは引き撮影で全体の様子が分かる写真を多く掲載しています。
このほか、ページがスマホで見やすいように写真の枚数を調整したり、掲載する写真から古いものを除外したり、フックになる写真をこだわりぬいて選んだりと、魅せ方を工夫しました。このほかInstagramも活用し、写真を効果的に魅せています。
-こうした取り組みの結果、得た成果を教えてください
中尾 数字の面では、稼働率・売上・利益ともに向上しました。年間売上はNBSがかかわる前から約1.5倍まで増加しましたし、稼働率も55%から80%以上になりました。利益率も大幅に改善して黒字転換しています。
口コミでの評価も向上し、「温泉宿・ホテル総選挙」では複数の部門で地域1位を獲得しました。
-今後、施設と取り組みたいことはありますか
中尾 最初に行ったミーティングで出たことはほぼ実現させました。残るのは従業員の福利厚生や、従業員の評価の仕方だと思います。福利厚生については、例えば従業員に高級旅館を経験してもらえるような制度を作ることも考えています。若い従業員が多い職場ですが、1泊10万円レベルの高級旅館に自分がお客様として泊まったことがある人はなかなかいません。家族旅行での宿泊代の一部補助、みたいなことができたらと思っています。
また、従業員が休みたいときに気兼ねなく休めるような制度作りをしていきたいです。女性が多い職場なので、結婚や出産、育児などにより、長時間労働が必要な旅館で働き続けることが難しくなるケースもあると思います。このため、産休育休はもちろん、短時間労働を可能にするなど、多様な働き方ができるような環境にしていきたいです。
そのためには働き方の構造改革も検討しなければなりません。すぐには難しいですが、客室数が少ない高級旅館だからこそチャレンジができるのではないでしょうか。
-働き方の構造改革とはどういったものなのでしょうか
中尾 スタッフのマルチタスク化に取り組んでいます。従業員がさまざまな仕事をできれば、忙しい時間帯に忙しい場所をサポートできますよね。
そうなると「いつも忙しい」となってしまい、従業員がしんどくなる場合もあるでしょう。しかし、これが「短時間で仕事が終わる」「休みが取れる」場合は両立できると思います。負担が増えないマルチタスク化が重要です。
その解決策の一つが、DXをうまく活用して仕事を簡略化していくことだと思います。人のおもてなしが重要な高級旅館では難しい部分もありますが、例えばこれまで手書きだった当日の宿泊者の情報をPMSから出力するようにするなど、できることはきちんとやっていきたいです。
さらに今回のケースでは、休館日を月に数日、連休になるように設定しています。休館は赤字だとできないので、サービスの向上や経費の削減により、支配人になって1年で黒字化させました。
旅館業界はとても大切だと思います。最近は外資系のラグジュアリーホテルが次々と進出してきていますが、日本ならではの「旅館」という文化は簡単には真似できるものではありません。とはいえ、利益率の低さは大きな課題です。このため、働きやすく利益がしっかり出せる「今の時代にあった日本型旅館」を作り上げ、各地の旅館をしっかり残していきたい、そんな手助けができればと考えています。
-ありがとうございました
中尾 最後に、ここまで見てくれた方にお伝えしたいのですが、あなたの施設では、“良い宿の条件”って何だと思いますか? ぜひチームで話し合ってみてください。
2025.05.09
2025.05.09
2025.03.07
2025.03.07
2025.01.20